ペイフォワード(Pay it forward)という考え方をご存知でしょうか。
自分が受けた善意を他の誰かに渡すことで,善意をその先に繋いでいくことをいいます。直訳すれば「先に向かって支払う」となりますけれど,善意を与えてくれた本人に対して受けた恩を返す代わりに,他の誰かに善意を送るということから,日本では「恩送り」とも表現されています。
実は今年4月末,当社社主が所属のロータリークラブの活動を通じて知己を得た支援学校のY校長先生から次のようなご依頼がありました。「4月に赴任してきたばかりの大阪府立中央聴覚支援学校高等部には専攻科(高等部卒業後さらに2年間スキルを磨くために設けられているコース)があり、その専攻科最終学年に生徒がふたり在籍している。ふたりは,それぞれ幼稚部から17年間通った学び舎を来春いよいよ卒業するにあたり,学んできた木工技術を生かして,卒業制作として,高等部校舎1階の廊下壁面を改修したいとの申し出があることを担当教諭から告げられた。気持ちに応えてやりたいが,年度もスタートしており,認められている校長予備費から本件に大きく割くわけにもいかず,費用捻出に窮している。彼らのプレゼンテーションをご覧いただいてからで構わないので,なんとか支援検討願えないだろうか。」というものでした。
この大阪府立中央聴覚支援学校の設立は,今から124年前に遡ります。17歳で失明し苦労を重ねて実業家となった五代五兵衛翁が,私財を投じ,実弟音吉の助けを得て設立した大阪盲唖院が源流。明治40年,大阪市に移管されたのち数回の改称を重ねますが,卒業生や関係者のお気持ちを踏まえて同校の前身となる「大阪市立聾学校」の名称が正門前に今も併記されています。歴代校長のなかには,きこえない子どもたちに口話のみで指導する方針が日本中を席巻し,手話を使うことが否定されていた時代に手話の必要性を強く訴え,のちに「手話の父」と呼ばれた高橋潔校長(映画「ヒゲの校長」(2022年)のモデル)がおられます。現在,日本で手話とともに使われている,50音を指で表す「指文字」を考案したのもこの学校だということです。
あれこれやり取りしたのち,5月中旬,Y校長と担当教諭のO先生との面談に校舎を訪問しました。生徒たちは,素晴らしい仲間や先生と出逢えた学び舎だけれども、余りにもレトロな校舎のせいで入学を希望する生徒数が減ってきているのではないかと考えるようになったそうで,彼らの母校愛に負けないくらいの勢いでO先生も熱い想いをお伝えくださるので,このお世辞にも明るくない(!)高等部校舎のエントランス改修工事に協力を申し出ることになりました。ただし,来春には社会人となるはずの生徒たちですから,彼らが命名した教育活動を目的とした架空の会社「すずかけ工務店」として,プレゼンに臨んでもらうことになりました。プレゼンテーションは翌月12日で調整。少し緊張してもらおう作戦で,当社から社主と取締役2名合計4名と,一級建築士事務所の株式会社クララ(本社:箕面市)の濱野社長と総勢5名で向かうことになりました。
一方,当社では生徒たちや先生方の熱い想いに応えたくて,密かに,「すずかけ工務店」の会社概要と名刺の製作,そしてユニフォームのTシャツを工事費用の目録と一緒に準備していました。
プレゼン当日,「すずかけ工務店」代表社員のふたりと後輩社員ひとりが緊張の面持ちで私たちを迎えてくれました。しかし,プレゼンが始まるや、たくさん練習したのがひと目で分かるほど,自信をもって挑んでくれました。
先生方や機械による通訳が必要な場面もありましたが,意思疎通に困難さを感じさせない見事なプレゼンテーションを披露してくれました。学び舎を巣立ち来春には社会人となる彼らの思いは,まさに「Pay it forward」。高等部の校舎の廊下壁面に木工技術を駆使した木目タイルでデザインし,後輩たちの学校生活に華やぎと潤いをと企画した「改修計画」。この日のために,何度も何度もプレゼンの練習,応酬話法の研究を重ねた様子が伝わり,心地よい感動を覚えるひとときでした。
プレゼン後には,用意していたもろもろ贈呈式を行いました。それから、出来立ての名刺を使って初めての名刺交換会!「すずかけ工務店」の皆様との親睦を図りました。
授業の合間を縫って、工事を進めるとのことで,2025年2月の工事完成に向けて頑張ってくれることと期待します!
完成パースは追って掲載します。心配だけどとても楽しみです!
(追記)
◆工事進捗確認①:7月25日(夏休み)墨出し
ユニフォーム着用で,準社員の先生方も総出で墨出しに着手。
運搬キャリー(!)も使って…悪戦苦闘(笑)
◆工事進捗確認➁:8月7日 下地貼り
わ、なかなかさまになって来たぞ!
つづく